事例概要
『お寺のホテル花園会館』は、日本最大の禅寺として知られる『臨済宗妙心寺派 大本山妙心寺』の東側に隣接するホテルです。 “お寺のホテル”という名の通り、上記の臨済宗妙心寺派大本山妙心寺様が経営・運営されているこのホテルは、四季折々の自然環境の中で禅宗の静寂さを味わうことができます。 この度の改修工事は、数年前より環境整備に取り組んできたお寺のホテル花園会館様が、より一層の快適さを実現するために計画されたプロジェクト。 当社クライアントである㈱JTB商事様と共に、“京都の風景”と“お寺の風情”というコンセプトをベースにしつつ、既存の内装デザインも利用することで、和とモダンが融合する空間を目指しました。
課題
“お寺のホテル”というイメージを色濃く表現するために、“和”を連想させる要素を取り入れること。 石貼りにより冷たさを感じる既存の内装を、温かみのある空間に変えること。
デザインのポイント:コンセプトは“京都の風景”と“お寺の風情”
ホテルにおけるエントランス・ラウンジ・フロントは、旅するゲストを出迎え、もてなし、送り出すといった役割を持つ特別な空間です。そのため、ホテルの顔としてその施設ならではの美しさや雰囲気が求められます。 本プロジェクトでは、“お寺のホテル”というイメージのブラッシュアップにあたり、デザインの土台となるテーマを“京都の町”にまで広げてみました。 妙心寺だけでなくお寺を取り囲む環境、周囲で生活する人々と文化、それらが集合して生まれる京都ならではの風景や風情。 京都の観光を支えている『お寺のホテル花園会館』を表現するうえでは、そういった要素に着目し取り入れることが重要だと考えました。
デザイン・施工のポイント:古くより愛されてきた意匠を盛り込んだエントランス
ゲストを最初に迎えるエントランスでは、上記のイメージを強く印象付けるために“格子”を採用。“格子”は京町屋の美しい景観を象徴する意匠であり、京都の風景を連想させるモチーフです。これに明るい木目を使用することで、親しみやすさと温かみのある雰囲気を演出しました。 明るい木目はラウンジの柱や家具にも用いており、既存の石貼りの壁面や床の色味とも調和するようにしています。 格子とあわせて採用した市松柄は、“石畳文(いしだたみもん)”とも呼ばれる敷石が由来の文様です。古くより愛されてきた日本を代表する文様であり、“和”の雰囲気を際立たせています。 修学旅行生や団体のお客様も多くいらっしゃるので、集合写真や記念写真のスポットとしても活用いただけるよう、目立ちすぎない色味を抑えた素材を選定しました。
デザイン・施工のポイント:妙心寺“四派の松”をモチーフとして取り入れた行灯風造作
ラウンジの中心とフロントバックを飾る行灯風の造作は、特にこだわりをもってデザイン&製作・施工しました。 シルエットとして浮かぶのは、妙心寺境内にある“四派の松”に着想を得た“松の木”。こちらは、お寺のホテル花園会館様と妙心寺のご住職の皆様からいただいたアイデアをもとにしています。 そのようにして選んだ“松の木”のシルエットを、美しく印象的に見せるうえでは、光の表現が非常に重要だと考えました。イメージに合う照明器具の選定や配置計画はメーカーと共に進め、サンプルの製作と十分な検証を重ねて仕様を決定していきました。 障子を模した意匠に加え、経年の味わい深さを表現した濃色の木目も取り入れることで、障子を通したやわらかな光の中に松の木が浮かび上がるという、“お寺のホテル”に相応しい造作となりました。
デザイン・施工のポイント:禅寺とゆかりのある“枯山水”をイメージしたラウンジ
行灯風造作が目を引くラウンジは、ゲストが集いくつろぐ空間です。ペアや数名からなるゲスト、大人数の修学旅行生など、利用者や状況に合わせて使いやすいように、家具の配置といった機能的な部分に配慮しました。 デザイン面については、『お寺のホテル花園会館』が元々大切にしている“禅宗の静寂さ”を演出するアプローチを試みました。 イメージとして参考にしたのは京都観光で有名な“枯山水(石庭)”です。実は枯山水、禅宗の影響を強く受けた庭園様式で、禅寺である妙心寺とも深い関りがあります。 枯山水(石庭)に見られる要素、水面を表した砂敷はカーペットで、石庭に配置される石はベンチスツールでそれぞれ構成しました。さらに、ベンチスツールを含めた家具、空間の配色を茶系・生成・エンジ色のアースカラーでまとめ、差し色として妙心寺の“松の木”を連想させる“緑色”を使用。 これらによって、“枯山水(石庭)”に宿る静寂さと心地よさをラウンジで表現しました。